カカオに関わるすべての人を笑顔に
「メイジ・カカオ・サポート」で持続可能な社会を目指す
明治ホールディングス株式会社
貧困や飢餓、気候変動や格差など、世界が抱える課題を解決していくためには、さまざまな人と協力し合う、「パートナーシップ」が欠かせません。
私たちにとって身近な「チョコレート」。その原料は海外で生産される「カカオ」です。 チョコレートをつくるメーカーの明治では「メイジ・カカオ・サポート」という取り組みを通して、カカオを生産する国や地域と協力し、生産地が抱えるさまざまな課題に一緒に取り組んでいます。 「メイジ・カカオ・サポート」について、先生篤史さんにお話を聞いてみました。
海外で育ったカカオがチョコレートになるまで
みなさんは、ふだん食べているチョコレートがどのようにつくられているか知っていますか? チョコレートの原料は「カカオ」というフルーツです。カカオはマンゴーや桃のように、果肉の中に種があり、この種の部分(=カカオ豆)を使います。 カカオをつくることができるのは、「カカオベルト」といわれる北緯20度、南緯20度に挟まれた限られた地域で、主な生産地はアフリカ、中南米、東南アジアなどです。 (先生さん)
収穫されたカカオは、チョコレートの原料となるカカオ豆を取り出して、バナナの葉で覆ったり木箱に入れたりして発酵させ、乾燥するところまでを生産地で行います。特に発酵は、チョコレートのおいしさを大きく左右する大事な工程となります。
乾燥したカカオ豆は日本の工場に運ばれ、すりつぶして、なめらかになるまで練りあげるといった加工ののち、みなさんの手元においしいチョコレートとして届けられます。 (先生さん)
「メイジ・カカオ・サポート」とは?
明治は、チョコレートに必要なカカオを求めて、世界中のカカオ産地に足を運んでいます。
しかし、そこには、さまざまな課題があり、カカオの生産には大きな問題があることが分かりました。
明治の研究所社員がカカオ生産地を訪れてみると、水や教育などインフラの不足、知識や技術不足による不安定な生産と収入、さらには、児童労働や森林減少など、さまざまな課題がありました。 そして、抱えている課題や困りごとは国や地域によって大きく違うことに気づきました。
こうした課題をそのままにしておいては、いずれ、カカオの生産が持続可能なものではなくなってしまいます。
そこで、2006年、明治は、チョコレートをつくる会社の責任として、カカオ産地が抱える課題に向き合い、それぞれの困りごとを一緒に解決していくためのプロジェクト、「メイジ・カカオ・サポート」を始めました。(先生さん)
世界9カ国で展開する「メイジ・カカオ・サポート」
現在、「メイジ・カカオ・サポート」は世界9カ国で展開しています。カカオ産地の人たちが一番に求めていることは何か。 施設や設備なのか、資金なのか、それとも、知識や技術なのか。 明治の社員がカカオ生産地を直接訪問して、現地の人の声に、丁寧に耳を傾けて、話し合いを重ねながら一緒に解決していくことを大切にしています。(先生さん)
「メイジ・カカオ・サポート」の取り組み①【ガーナ】
日本に輸入されるカカオ豆の約8割がガーナ産。 ガーナでの「メイジ・カカオ・サポート」の取り組みはどのようなものなのでしょうか?
ガーナでは水道が普及していない地域もあります。そのような地域では主に女性と子どもたちが川への水くみに時間と手間をとられていました。みなさんも写真や映像で、アフリカの女性や子どもたちが頭の上に大きな水がめを載せて運ぶ様子を見たことがあるのではないでしょうか。水を運ぶのは大変な重労働です。
そこで「メイジ・カカオ・サポート」では、いつでもきれいな水が使えるように、ガーナに10基の井戸を寄贈しました。井戸水は、生活用水だけでなく、カカオの苗木を育てるのにも役立ててもらっています。
また、教育を受ける機会が少ない地域では、子どもたちに向けて、「絵を描く」・「チョコレートをつくる」などの授業を実施。 カカオの絵を描いたり、収穫したカカオを使ったチョコレートを手づくりしています。(先生さん)
このほかにも、ガーナのカカオ農家に対して、良質な品種やたくさん収穫できる品種のカカオの苗木を無償で配布したり、気候変動にも対応した栽培法や森林の減少を食い止める農法などの技術支援も行っています。
井戸ができた地域の方々からは「命が救われた。生活がつながった。乾季になったら、井戸のありがたさをもっと感じるだろう」という声をいただいたと聞いています。私もこの話を聞いて、この取り組みの大切さを改めて認識しました。 (先生さん)
「メイジ・カカオ・サポート」の取り組み②【ブラジル】
ブラジル北部にある「トメアスーカムタ農協」は、約90年前、日本から移住した日系人組合員を中心とする農協で、「アグロフォレストリー」という農法を取り入れてカカオを生産しています。
「アグロフォレストリー」は自然にならい、高さの異なるさまざま農林産物を一緒に育て、農業をしながら森を育てる、「森をつくる農法」とも言われ、持続可能な農法として注目を集めています。
農協では、当初から、良質なカカオを生産していましたが、明治は、おいしいチョコレートをつくるために、さらに質の良いカカオづくりに挑戦することを提案し、パートナーシップを結んで、一緒にカカオの発酵の研究や生産方法の改良に取り組むことになりました。
明治の研究開発チームが現地を訪問し、技術や知識に関する指導を行ったところ、驚くほど短期間で技術や品質レベルが上がり、質の良いカカオ豆を生産できるようになりました。
今では、農協のみなさんは、質の良いカカオを一緒につくる大切なパートナーです。 明治は、農協で生産したカカオを適正な価格で買い取るという長期的な契約も結んでいます。
これまでは、環境にやさしい農法で、なおかつ質の良いカカオを栽培していても、適正な価格で買ってもらえず、農家の収入に結びついていませんでした。 しかし、きちんと作ればカカオの価値に見合った価格で買い取ってもらえる、という契約をすることで、農協で働く農家の収入が安定し、安心して質の良いカカオづくりを続けていくことができるようになりました。(先生さん)
長期的な取り組みは、暮らしや生活が安定するだけではありません。品種改良の研究や品質管理のための組織、システムの整備など、カカオ豆をより多く生産するためにお金を使うことができるようになります。 そして、それはカカオ農家のさらなる収入アップにもつながります。
農協とのパートナーシップによって良い関係をつくりだすことで、明治はよりおいしいチョコレートをお客様にお届けすることができ、生産者・お客様・明治の循環をつくりだすことができます。結果、それが森の再生という環境を守ることにもつながっています。
実は、農協の方々は、それまで自分たちが生産したカカオから作られたチョコレートを食べたことがなかったそうです。自分たちのカカオから生まれた明治のチョコレートを食べたときは、非常に感激してくれて、「このチョコレートが日本のお店に並んでいることを思うと、故郷に錦を飾った気分です」とおっしゃってくれました。(先生さん)
カカオを通してパートナーシップについて考えよう
明治は、「メイジ・カカオ・サポート」を通して、チョコレートに関わる全ての人が笑顔になるような循環をつくりだし、カカオ産地や農家を取り巻く環境が持続可能な状態になることを目指しています。
しかし、カカオ生産国の中には、森林減少や児童労働といった、明治だけでは解決することができない、複雑な課題もあります。
こうした課題に対しては、世界カカオ財団などによる森林の保護・回復を目的とした「CFI(Cocoa & Forests Initiative)」への参画、カカオ産地の児童労働をなくすための活動を推進するNPO「ICI(International Cocoa Initiative)」への加盟など、多様なパートナーとの関係を強化することで、その解決に取り組んでいます。
チョコレートをつくる会社、その原料となるカカオ生産国の農家や団体、そしてカカオに関係するたくさんの人たちが協力し合うことで、良質なカカオの生産とおいしいチョコレートづくりが持続可能なものになっていきます。
これからみなさんがチョコレートを食べるときは、ぜひカカオを生産する遠い国や地域のことも考えてもらえるとうれしいですね。 また、生産者だけ、明治一社だけでは解決が難しい課題について、みんなで協力しあいながら解決に取り組んでいるように、みなさんの身の回りに起きる困難や目標についても、誰かと一緒に解決することを考えてみてください。一人で悩まない、仲間を見つける、そんな行動もSDGsの目標達成につながっていくのではないでしょうか。(先生さん)
コラム:森を再生させるアグロフォレストリー
アグロフォレストリーとは、農業(アグリカルチャー)と林業(フォレストリー)をかけ合わせた言葉です。同じ土地で一種類の作物をつくるのが一般的な農業のスタイルですが、アグロフォレストリーでは、同じ土地で同時に複数の作物を栽培。そのため、見た目は「畑」というよりも「森」のようなイメージです。
収穫できる時期がそれぞれ違うため、途切れることなく収穫して収入が安定する、病気などで作物が全滅するリスクを減らせるなどのメリットがあります。また、さまざまな作物が育つことで土地の生物の多様性も守られ、環境にもやさしい農法です。世界中でこのアグロフォレストリーを取り入れた農業が行われており、その土地の環境に合わせた作物を組み合わせて栽培しています。
原稿作成:株式会社 日経BP