※映像内で紹介されている「バイオジェット燃料」は2019年当時のものであり、現在は「SAF(持続可能な航空燃料)」に変わっています。
二酸化炭素を減らしてクリーンな空の旅を~JALグループのSAF(持続可能な航空燃料)への挑戦~
日本航空株式会社
地球温暖化の原因の一つ、二酸化炭素。二酸化炭素を出す量を減らし、地球温暖化を止めることは、世界のあらゆる分野で今すぐに取り組まなければならない課題です。
この課題の解決に向けて、航空会社も新しい取り組みを始めています。
航空会社の二酸化炭素を減らす取り組みについて、日本航空株式会社の平野さんに教えてもらいました。

日本航空株式会社 ESG推進部 GX企画グループ アシスタントマネジャー 平野佳さん
世界の航空会社が協力して挑む二酸化炭素の削減
たくさんの人やモノを乗せて、世界中を飛ぶ飛行機。飛行機によって、わたしたちは行きたいところに時間をかけずに移動できるようになりました。
周りを海に囲まれている日本に暮らすわたしたちにとって、飛行機は世界を身近に感じさせてくれる大切な乗り物です。
一方で、飛行機は飛ぶ力を作り出すために、石油からつくられるジェット燃料を大量に使い、たくさんの二酸化炭素を発生させてしまいます。
航空業界が出している二酸化炭素の量は、世界全体のおよそ2%。地球温暖化が進む中で、決して無視できるものではありません。そのため、日本を含めた世界中の航空会社は、ルールをみんなで決めて、二酸化炭素の量を減らすための具体的な取り組みを行っています。(平野さん)。

燃料を化石燃料に頼っている航空業界は、環境への影響を少なくする方法を考え続ける必要があります。
JALグループが1年間に出す二酸化炭素の量は約909万トン(2019年度)。このうち、99%以上が飛行機を飛ばすことに関わっています。
航空業界ではこれまで、使う燃料を少しでも減らすことで、二酸化炭素の削減をしてきましたが、今後、一層の削減を進めていくためには、燃料の「質」も変えていかなければなりません。そこで、JALグループが取り組んでいるのが「SAF(持続可能な航空燃料)」への挑戦です。(平野さん)
二酸化炭素を大幅に減らす「SAF(持続可能な航空燃料)」
SAF(持続可能な航空燃料)は、これまでごみとして捨てられていたものなどを原料にしてつくる新しい燃料のこと。
SAFは、家庭ごみなど都市から出るごみや木材、とうもろこしなどの農作物の食べられない・家畜の飼料にできない部分、使用済みの食用油、藻類などが主な原料となります。
SAFと現在のジェット燃料(化石燃料)の一番の違いは原料です。ジェット燃料は、地下に眠っている原油を掘り出してつくっていますが、SAFは、原料にごみなどの資源を再利用したものや、成長するときに二酸化炭素を吸収する植物などを使用しています。(平野さん)

SAFの主な原料は都市ごみや植物など、すでに地表にあるもの。
SAFは、飛行機の二酸化炭素を減らすのにどのように役立っているのでしょうか。
現在のジェット燃料は、原料となる原油を掘り出すときに、地下に閉じ込められていた炭素を地表に出してしまい、大気中で酸素と結びついて二酸化炭素を増やしてしまいます。しかし、すでに地表にあるごみなどの資源を原料にすれば、こうした問題が起こらず、大気中の二酸化炭素を増やすことはありません。
(平野さん)。

地中に閉じ込められていた炭素が地表に出ることで、大気中で酸素と結びつき二酸化炭素の量が増えることに
また、植物を原料にしたSAFの場合、燃料を燃やしたときに出る二酸化炭素の量は、植物が成長するときに吸収したものと同じ量であるので、大気中の二酸化炭素が新たに増えることはありません。
こうした理由から、SAFは、原油からつくる燃料に比べて二酸化炭素の排出量を5~8割ほど減らせるのです。(平野さん)
SAF(持続可能な航空燃料)の実用化に向けて
今はまだ、原油からできた燃料にSAFを混ぜて使っているのですが、サンフランシスコから日本への運航では、原油からできた燃料だけで運航する場合と比べて、二酸化炭素をおよそ25%減らすことができました。(平野さん)

JALでは、2009年にアジアで初めてSAFによる試験飛行、2017年にはシカゴから日本、2019年にはサンフランシスコから日本に、乗客を乗せてSAFによる運航を行いました。そして、2019年に購入した最新型の飛行機は、工場のあるフランスから日本へ運ぶときにSAFを使っています。
こうした実績を積み重ねながら、SAFの利用を増やすことに取り組んでいます。

© AIRBUS 2019 - photo by P. MASCLET / master films
SAFは飛行機の出す二酸化炭素を減らすにはとても有効な方法ですが、すべての飛行機が利用できるようになるには課題もあります。
SAFの活用に向けた一番の課題は「SAFを生産するしくみ」です。(平野さん)
SAFはそれをつくるための原料(※都市ごみ,植物など)が足りておらず、また、燃料をつくるために必要な製造工場も不足しているため、十分な量の生産ができていません。
そして、現在はSAFを使う航空会社も限られているため、価格は高くなり、原油からつくる燃料に比べて、SAFは3~4倍の価格になってしまっています。

SAFが広く使用されるためには、生産量を増やし、それを使う航空会社が増えることで価格が下がり、SAFを買いやすくする仕組みが重要です。
JALグループでは、SAFの安定的な生産をするために、SAFの製造会社を支援して、燃料の生産体制づくりにも取り組んでいます。(平野さん)
また、SAFを日本で製造するプロジェクトもスタートしています。
JALグループが使う燃料のおよそ7割は、日本の空港で飛行機に給油しています。SAFを海外からの輸入に頼ってしまうと、燃料を輸送するのに二酸化炭素が出てしまうことになりますから、さらに環境への負荷を減らすためにも、日本で燃料をつくり、日本で利用できる体制をつくる必要があります。(平野さん)
JALグループでは、商社、建設会社、石油元売り企業、廃棄物処理会社などほかの業種の会社と協力し、2026年ごろの国産SAFの実用化を目指しています。
わたしたちはSAFを使う立場の航空会社として、このプロジェクトをリードする責任があると考えています。
将来、みなさんが飛行機に乗るときは、すべてのフライトにSAFが少しずつでも使われているようにするのが目標です。(平野さん)
環境へのさまざまな取り組み
JALグループでは、SAFの活用以外にも、二酸化炭素を減らすためのさまざまな取り組みを行っています。
飛行機も自動車と同じように、運航の仕方で二酸化炭素の量が変わってきます。安全を第一に、離陸や着陸、飛行中に、できるだけ燃費がよくなる方法を工夫することも、二酸化炭素を減らす取り組みの一つです。(平野さん)
このほかにも、性能のよい新しい機体に変えていくこと、地上を移動するときにはエンジンを一つ止めること、エンジンをきれいに洗うこと、飛行中に窓の日よけを下ろして機内のエアコン利用を減らすことなど、いろいろな工夫をして、二酸化炭素を減らしています。


自然や社会と共生する航空会社を目指して
飛行機は、わたしたちを短い時間で遠く離れたところへと運んでくれて、わたしたちの世界を広げてくれる大切な乗り物です。そのため、利用するときにはできるだけ環境に負担をかけないようにすることが必要です。
世界とつながり、たくさんの人や文化に出会い、さまざまな意見や考えに触れることは、これから生きていくためにもとても大切なことだと思います。
飛行機は、みなさんがそうした経験や体験をしたいと思ったときに、きっと役に立つことができる乗り物です。
ですから、「どうすれば、環境に負担をかけない方法で、飛行機を利用できるのか」をわたしたちはいつも考えています。
みなさんも毎日の生活で「環境のために何ができるのか」を一緒に考えてもらえたらと思います。(平野さん)
二酸化炭素を減らし、自然や社会と共に生きる航空会社へ。豊かな地球を未来に引き継ぐための挑戦が始まっています。
原稿作成:株式会社 日経BP