行きたいところ、届けたいところへ、人や物を自由に運んでくれるクルマ。
私たちの快適で豊かな暮らしに欠かせないクルマですが、走るときやつくるとき、そして、捨てられるときに、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を発生しています。
クルマの二酸化炭素を減らすために、自動車会社も取り組みを続けています。トヨタ自動車の取り組みから、クルマと二酸化炭素について考えてみましょう。
クルマと二酸化炭素
トヨタ自動車では二酸化炭素を減らして、持続可能な未来を実現するため、さまざまなクルマを開発しています。そんな、クリーンなクルマについて、トヨタ自動車の井戸大介さん、伊東直昭さんに教えていただきました。
トヨタ自動車株式会社 トヨタZEVファクトリー車両企画グループ 主査(取材当時)
井戸大介さん
トヨタ自動車株式会社 GAZOO Racing Company/水素エンジンプロジェクト統括 主査
伊東直昭さん
今、道路を走っている多くのクルマは「ガソリン車」です。 ガソリン車は、燃料であるガソリンを「燃やす」ことで、エンジンを動かして走りますが、このとき、クルマから大気中に出される排気ガスの中に二酸化炭素が含まれています。
みなさんは、クルマが出す二酸化炭素といえば、走るときに出されるものを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、クルマは工場でつくられるとき、そして使われなくなって捨てられるときにも二酸化炭素が発生します。
ですから「クルマの二酸化炭素を減らす」ことを考えるときには、走るときの二酸化炭素を減らすことはもちろん、つくるときや捨てるときに発生する二酸化炭素を減らすことも考えなければなりません。(井戸さん)
「運輸部門における二酸化炭素排出量(国土交通省)」より作成
二酸化炭素を減らすクルマづくり
トヨタ自動車では、走るときの二酸化炭素の発生を減らすために、これまでにさまざまなタイプのクルマを開発してきました。 エンジンとモーターの両方で走るハイブリッド車(HEV:エイチイーブイ)、HEVに充電機能を加え、モーターでの走行距離を伸ばしたプラグインハイブリッド車(PHEV:ピーエイチイーブイ)などは、日本や世界でも見かけることが増えていますが、今、世界中で注目されているのが電気だけで走る電気自動車(BEV:バッテリーイーブイ)です。
トヨタ自動車のBEV
クルマを動かす燃料にガソリンを使わず、電気だけで走るのがBEVです。そのため、BEVは走っているときに二酸化炭素が一切出ません。環境のことを考えたクリーンなクルマとして大きな注目を集めており、世界中の国で開発や普及が進んでいます。 (井戸さん)
乗り方に合わせてBEVを選べる時代へ
BEVに乗る人が増えている中、トヨタ自動車では、2030年までに世界で30車種、年間350万台のBEVを発売することを計画しています。
今、ガソリンで走っているクルマは、小さいもの、スポーツタイプ、大きなものまで、目的や乗る人数に合わせて、いろいろな種類のクルマを選べますよね。BEVもそれと同じように、どのような目的でクルマを使うのか、それに合わせて必要なクルマを選べるように、種類をそろえていきたいと考えています。
走るときに二酸化炭素を出さないというだけでなく、振動をまったく感じないほどのなめらかな乗り心地、距離によってはガソリンよりも安く乗ることができるのもBEVがガソリン車とくらべて優れているところです。(井戸さん)
目的や乗り方に合わせてたくさんの種類の電気自動車(BEV)を開発
大切なのは電気のつくり方
クルマから出る二酸化炭素を減らすため、世界中の国が、電気自動車(BEV)の開発と普及に取り組んでいますが、それだけで問題を解決できるのでしょうか?
走るときに二酸化炭素を出さないBEV も、クルマをつくるときや、充電用の電池をつくるときに二酸化炭素が発生していることに変わりはありません。
そして、忘れてはいけないのはBEVのエネルギーは「電気」だということです。
例えば、BEVを走らせるときに使う電気が、石炭や石油など、化石燃料を燃やしてつくられている電気だとしたら、どうでしょうか? また、現在走っているクルマのすべてがBEV に代わったら、その電気をどのようにつくればよいのでしょうか?
地球温暖化への対策としてBEV の普及を目指すのであれば、それを走らせるための電気も、クリーンな再生可能エネルギーでなければ、社会全体でみたときに、二酸化炭素が増えてしまうことにつながってしまう可能性があります。
また、気候、地形、道路、インフラなどの理由で、電気自動車の普及に時間がかかったり、選択することが難しい国や地域があることも考えていかなければなりません。(井戸さん)
ガソリンでも電気でもないエネルギー「水素」
クリーンなクルマの選択肢は、電気で走るクルマだけではありません。トヨタ自動車では、ガソリンでも電気でもないエネルギー、「水素」で走るクルマの開発にも取り組んでいます。
水素は燃やしても発生するのは水だけ。二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーとして注目されています。水素で走るクルマをだれでも手に入れられるようになれば、日本のように再生可能エネルギーをつくることが難しい地域でも、クルマの二酸化炭素を減らすことができます。(伊東さん)
水素を使って走るクルマには2つの種類があります。
ひとつは、水素をクルマの中で電気に変換し、モーターを動かして走る燃料電池車(FCEV:エフシーイーブイ)です。トヨタ自動車では「MIRAI」という名のFCEVを2014年から販売しています。
トヨタ自動車のFCEV「MIRAI」
そして、今、トヨタ自動車が研究と開発を進めているのが、水素を使って走るもう一つのクルマ、「水素エンジン車」です。
水素エンジン車のしくみは、ガソリン車とほとんど同じです。ガソリンの代わりに水素を燃やして、そのときに発生する力でエンジンを動かして走ります。水素エンジン車は、ガソリン車のしくみをほとんど使えるため、工場での製造方法を大きく変える必要が無く、これまでのクルマの良いところを使えるというメリットがあります。
今、トヨタ自動車では、水素エンジン車で、レースに挑戦しています。普通の道路で走るよりもはるかに厳しい条件で、水素エンジン車を走らせることで、さまざまなデータを集め、近い将来、一般のクルマとして販売することを目指して改良を進めています。(伊東さん)
クリーンなクルマに多様な選択肢を
水素は、まだ電気と同じように安価で大量につくることはできず、だれもが使えるエネルギーではありません。しかし、技術革新が進めば、電気に代わるエネルギーとして、二酸化炭素の削減への貢献が期待できます。
二酸化炭素を減らすための取り組みは、今すぐ取り組まなければならない課題ですが、国や地域によってできる対策は異なるため、正解は一つではありません。
BEVも、クルマの二酸化炭素を減らすために必要な答えの一つですが、日本のような再生可能エネルギーの生産に適していない地域、BEV に必要な設備をつくることが難しい地域、砂漠や寒冷地など、そもそもBEV が向いていない地域などもあり、それぞれの地域に合わせたクリーンなクルマが求められます。
トヨタ自動車は、世界中のあらゆる地域でクルマを販売している会社です。ですから、あらゆる国や地域で暮らす人たちが、その人たちに合ったクリーンなクルマを選択できるように、多様なクルマの開発に取り組んでいきたいと考えています。(伊東さん)
すでに多数販売されているハイブリッド車から、現在開発を進めている水素エンジン車まで様々な選択肢を用意して、世界中のあらゆる地域にクリーンなクルマを届けていく。
地球の未来をつくる子どもたちへのメッセージ
最後に、井戸さん、伊東さんから、持続可能な社会をつくる担い手となる、みなさんへのメッセージをもらいました。
クルマで出かけることが楽しくて豊かな生活。そんな未来のためにクルマづくりに取り組んでいます。みなさんも、毎日の暮らしの中で、好きなコトや楽しいコトがみつかったら、それをとことん突きつめて欲しいと思います。好きなコトや楽しいコトは、必ず世界とつながっていて、たくさんの仲間と出会うきっかけになりますから。
そうして突きつめたコトが、わたしたちのクルマづくりとつながっていたら、ぜひ一緒に持続可能な社会にとって必要なクルマを考えていきましょう。(井戸さん)
わたしたちは、環境の課題に対応するだけでなく、個性あふれる楽しいクルマを未来に残していけるよう、新しい技術を開発しています。みなさんも、大人になったらたくさんクルマに触れて乗ってみてください。そしてクルマが好きになったら、また次の時代に向けてクルマの未来を考えてくれるとうれしいです。(伊東さん)
原稿作成:東京書籍株式会社
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