
洋服やペットボトル、お弁当や食品の容器など、わたしたちの身の回りのさまざまなものに使われているプラスチック。しかし、今、そのプラスチックがごみとなることで大きな問題を引き起こしています。
この問題の解決に、食品や飲料を世界中で販売する会社も行動を始めています。「キットカット」や「ネスカフェ」などを製造して販売している、ネスレ日本の佐藤さんにその取り組みを聞きました。
ネスレ日本株式会社 コンフェクショナリー事業本部 佐藤 由樹さん
プラスチックごみの問題に取り組み、みんなが考えるきっかけに~「キットカット」の外袋をプラスチックから紙に~
ネスレ日本株式会社
洋服やペットボトル、お弁当や食品の容器など、わたしたちの身の回りのさまざまなものに使われているプラスチック。しかし、今、そのプラスチックがごみとなることで大きな問題を引き起こしています。
この問題の解決に、食品や飲料を世界中で販売する会社も行動を始めています。「キットカット」や「ネスカフェ」などを製造して販売している、ネスレ日本の佐藤さんにその取り組みを聞きました。
ネスレ日本株式会社 コンフェクショナリー事業本部 佐藤 由樹さん
じょうぶで空気や熱も通しにくく、いろいろな形に加工できるなど、プラスチックはその機能と性質から、身の回りのさまざまなものに使われていて、わたしたちがつくる「キットカット」の包装もその一つです。
しかし、一方で、プラスチックはその多くが使い捨てにされていて、ごみとして捨てられると自然に分解されることがほとんどなく、その回収や処理が難しいものになってしまいます。(佐藤さん)
最近、特に問題となっているのが、海のプラスチックごみです。ごみとして捨てられたプラスチックが最後に行きつくのは海。世界中の海には、毎年1,400万トンものプラスチックごみが新たに流れ込んでいると推定されています。このままの状況が続けば、2050年には海にいる魚の重さよりもプラスチックごみの方が多くなると言われています。
世界の海に流れ込む海洋プラスチックごみは、毎年、少なくともスカイツリー390基分に相当しています
また、捨てられたプラスチックは、波の力や紫外線の影響で細かくなり、5mm以下の「マイクロプラスチック」となって世界中の海に存在していて、こうしたマイクロプラスチックが海の生き物たちの体から見つかっています。そして、それらの生き物を食べているわたしたちの体にも蓄積していると言われています。
マイクロプラスチックは海の生態系に取り込まれて、わたしたちの体にも蓄積しています
ネスレは、世界中で食品や飲料を製造、販売している会社として、この問題に取り組む責任があります。
そこで、2025年までに、全世界でつくる製品の包装を95%以上リサイクル可能な設計に変えて、プラスチックごみを減らしていくことを決めました。
(佐藤さん)
ネスレでは、世界中でプラスチックごみの問題に対する取り組みを始めていますが、日本では、2019年から「キットカット」の外袋をプラスチックから紙にする取り組みを始めています。(佐藤さん)
日本で1年間に捨てられるプラスチックごみは約769万トン。そのうち、約半分が、レジ袋や食品トレー、ストローなど、一度利用されただけで捨てられてしまうことが多い「容器・包装」で使われているものです。ですから、プラスチックごみを減らしていくために、包装で使われるプラスチックを減らしていくことは、大きな効果のある取り組みです。
日本で捨てられているプラスチックごみの内訳。
【2023年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況(プラスチック循環利用協会) より作成】
「キットカット」は世界80か国以上で発売されているチョコレートで、日本は世界でもトップクラスの売り上げを誇っています。ですから、プラスチックごみ問題への取り組みを考えたとき、「キットカット」で使われているプラスチックを減らすことが、わたしたちネスレ日本が率先して取り組むことであると考えました。(佐藤さん)
プラスチックごみの問題は現在も進行している問題です。
ですから、たとえ小さな一歩だとしても、すぐにでもできることから始めることが大切だと佐藤さんは言います。
「キットカット」で使っているプラスチックの包装は、チョコレートを直接包んでいる個包装と、それをまとめて入れている外袋があります。 「キットカット」のおいしさや品質を守るために、チョコレートを直接包んでいる個包装をすぐに紙に変更することは現実的ではありませんでした。
しかし、個別に包装されたチョコレートを入れている外袋であれば、すぐにでも素材を紙に変えることができます。そこで、まずは外袋を紙にすることから始めることにしました。(佐藤さん)
しかし、プラスチックがもつ、じょうぶで破れにくく加工しやすいという特徴を、どのようにして紙で実現するか、課題はありました。いくら環境に良いからと言って素材を変えても、外袋がやぶけてしまったり、見た目が良くないものになったりしては、そもそも商品としての価値が小さくなってしまいます。
この問題を解決するために、工場で包装の機械をつくる会社や紙の印刷をする会社に技術面で協力をしてもらい、2019年9月には「キットカット」の主力5商品の外袋を紙にすることができました。プラスチックから紙に素材を変えようと決めてから、1年弱ほどで実現しました。
2019年当時のパッケージ。
紙の外袋に変更することについては、商品の販売を担当している営業部門からは当初「なぜやるのか」といった疑問の声もありましたが、世界中で大きな問題になっている社会課題の解決に取り組むことの意義を丁寧に説明することで、少しずつ意識が変わっていったと言います。
実際にプラスチックから紙に変えた新しい外袋ができると、商品を売るお店や、買う人たちから「とてもいい取り組みですね」と言ってもらえました。また、特に子どもや若い人たちは、環境への関心が強く、紙の外袋に注目してくれているようです。
少しずつではありますが、消費者も「より環境のことを考えた商品」を選ぶように、考え方や行動が変わって来ていることも感じています。(佐藤さん)
ネスレ日本では、2020年には「キットカット」の大袋製品のほぼすべての外袋をプラスチックから紙に変更し、プラスチック使用量を減らすことができました。しかし、これは、日本で捨てられているプラスチック全体の量から見れば、まだほんのわずかな量だと佐藤さんは言います。
こうした取り組みを続けていくには、紙でできた製品が消費者にもっと選ばれる必要があると考えています。そして、環境のことを考えた商品の方が、それ以外のものより選ばれるということがはっきりすれば、ほかの会社ももっと新しいアイデアを出していき、プラスチックを減らすための取り組みが加速していくと思います。
わたしたちの取り組みが、お客様であるみなさんの行動を変えるきっかけになり、ほかのいろいろな会社でも、この問題に取り組もうという動きが広がるきっかけになれば良いと思っています。(佐藤さん)
紙に変えた外袋で「折り鶴」をつくって気持ちを伝えあう活動を提案するなど、ごみの価値を変える解決策の提案にも取り組んでいる。
SDGsを意識して、ふだんの生活で具体的な行動をしている人は少しずつ増えています
わたしたちネスレは、食品や飲料をつくる会社として、おいしくて安全で、そして環境に配慮した商品をみなさんに届ける責任があります。そして、みなさんは「消費者」として、商品を買うときに「何を」選ぶかという責任があります。
消費者が、環境を配慮した商品を選ぶことで、社会にはそうした商品が増えていくはずです。みなさんの行動には、持続可能な社会の実現に向けてとても大きな責任と力があると思います。
紙の外袋の「キットカット」を手に取ってもらって、そういうことを考えるきっかけになってもらえたら嬉しいですね。(佐藤さん)
わたしたちの責任ある行動が、環境のことを考えた商品づくりにつながります。
原稿作成:株式会社 日経BP