木を育て、使い、森林の循環をつくる
住友林業株式会社
豊かな恵みを与えてくれる森林
豊かな自然を感じさせてくれる森林。
その森林の未来を守り、育てていくためにはどうしたらいいのでしょうか。
苗木を植えて木を育て、成長した木を伐り出して人々の暮らしに活用するなど、「木」にまつわるさまざまな仕事をしているのが住友林業です。住友林業で、森林の管理をしている渡部大寛さんに、森林を育てることについて聞いてみました。

住友林業株式会社 資源環境事業本部 大阪森林事業所 渡部大寛さん
※所属は2025年時点のものです。
みなさんは、森林にはどんな役割があると思いますか?
森林には、雨水をたくわえてきれいな水を生み出す、二酸化炭素を吸収して酸素をつくる、生きものたちのすみかになる、洪水や土砂くずれなどをふせぐ、暮らしに必要な木材を育てる、わたしたちの心や体をリラックスさせてくれるなどの働きがあります。また、木は、成長するときにたくさんの二酸化炭素を吸収することで、地球温暖化をふせぐことにも役立っています。(渡部さん)

手入れが行き届かず「荒れた森林」が増えている
日本は国土のおよそ7割が森林で、世界でも緑が豊かな国です。このような自然のめぐみを生かして、日本人は昔から、木で建物や道具をつくり、木に親しむ暮らしをしてきました。しかし、現在、日本には荒れて元気を失っている森林がたくさんあると渡部さんは言います。どういうことなのでしょうか?
日本の森林には自然のままの「天然林」と、人の手で植えられた「人工林」があります。今から、60~70年ほど前、資源となる木材を育てるためにたくさんの木を植えて人工林をつくりました。しかし、これらが手入れをされずに放置され続けてしまったことで、現在はたくさんの森林が荒れてしまいました。
荒れた森林は、太陽の光が地面に届かず、薄暗いため、地面に草はほとんど生えず、栄養が行き届かない木はひょろひょろと細く建物や道具の材料にすることができません。また、生きものが住みにくい森林となり、固くなった土は大雨の時に洪水や土砂くずれを引き起こすなど、多くの問題を生み出してしまいます。(渡部さん)

元気な森林

荒れてしまった森林
本来であれば、60~70年前に植えた木の多くは、今まさに伐採期(木が成長して伐るのに適した時期)を迎えています。しかし、海外から多くの木材が輸入されるようになったことなどの理由から、日本の木の出荷が減ったため、植えた木が伐られることも減りました。また、木の出荷が減ったことで、林業で働く人も少なくなり、若い働き手も減って人手不足で手入れをすることができなくなり、森林がどんどん荒れてしまったのです。(渡部さん)
人工林

人が苗木を植えて育てた森林。同じ種類の木だけが植えられていることが多い。日本ではスギ、ヒノキ、カラマツなどの針葉樹が中心。
天然林

長い年月をかけ、針葉樹や広葉樹などがバランスを保ちながら、その土地の気候に合うようにできた自然の森。
育てて、伐って、使う「森林の循環」
荒れた森林が元気を取り戻すには、どうすればよいのでしょうか。
人がつくった森林は、適切に管理して手入れをしなくてはなりません。苗木を守り、成長した木を伐る、伐った木をさまざまなところで適切に使う、使った分の木を新しく植えて育てる、そして成長した木を伐ってまた活用する・・・。元気な森林をつくり、守り続けるには、このような「森林の循環」をつくることが大切です。木を植えて終わりではなく、成長した木を伐って新しい木を植える、こうしたサイクルを繰り返すことで、森林はいつまでも元気でいられるのです。わたしたちは、50~100年という長い年月をかけて森林の循環をつくり、元気な森林を育て続けています。(渡部さん)

伐る、加工する、使う、植える・育てるという循環が、生き生きとした森林を育てるためには必要です。
住友林業では、全国におよそ48,000ヘクタール、日本の国土のおよそ800分の1という、広い面積の森林を管理し、森林の循環をつくり続けています。その具体的な取り組みを教えてもらいました。
森林の循環をつくる取り組み
1.植える・育てる
住友林業では、北海道や愛媛県など、全国に6カ所にある「樹木育苗センター」で苗木を育てています。コンテナという容器を使い、丈夫で植えやすい苗木を育て、育った苗木を山に植えます。また、植えた苗木が鹿などの動物に食べられてしまわないよう、ネットやツリーシェルターで守り、定期的に巡回しています。

2.伐る
植えた苗木は、成長に合わせて手入れをします。木が小さいうちは、日光をしっかり浴びられるよう周囲の草を刈ります(下草刈り)。ある程度成長すると、育ちの悪い木や曲がっている木を間引いたり(間伐)、余分な枝を切ったり(枝打ち)、木材としてよい木に育て、計画的に伐採していきます。

3.運ぶ・加工する
伐り出した木は、長さや太さで分別し、角材や板などに加工します。その後、木材として、家や建物、道具や家具、紙の原料、発電用の燃料などとなります。

4.使う
加工された木材はさまざまなところで使われています。わたしたちがふだん使っている鉛筆や机、ノートの紙、オムツ(サニタリープロダクツ)、ダンボールなども木からつくられています。

新しい技術で、進化する林業
長い年月をかけて木を育て、木材として販売するのが林業です。手間のかかる作業も多いのですが、最近は、新しい技術を使うことで、もっと便利で効率的に作業できるようになりました。
例えば、これまでは苗木を植えるために山に道をつくるところから始めていた苗木運びも、ドローンを使って効率的に行うことができるようになりました。
また、山の地形や木の量を把握するのにも、以前は広い山の中を歩いて回っていましたが、今はレーザ技術で取得したデータをパソコンに送って管理できるように。技術の進歩が林業をどんどん進化させています。(渡部さん)

ドローンで苗木を運ぶようす

航空レーザ計測の写真
元気な森林を守るには、「木を使うこと」が大切
みなさんの中には、「木を伐らないことが、森を守ること」と、思っている人もいるかもしれません。しかし、これまで見てきたように、元気な森林を育てるには、"木を伐って、使ってまた植えること"が必要となります。(渡部さん)
しかし、昔は木でつくられていた製品の多くが、今では石油からつくられるプラスチックなどに替わっているのが現状で、木を使われることが少なくなっています。
木にはプラスチックなどの人工でつくられたものとは違い、自然の材料ならではの良さがあります。また、限りある資源の石油や石炭と違い、人が手をかけることで再生が可能で、持続的に使い続けられる資源という点でも優れているといえるでしょう。(渡部さん)
木は捨てるところがなく、全て有効に活用することができます。木くずを燃やして、その熱を利用する「木質バイオマス発電」では、環境にやさしい方法で電気を生み出しています。また、国内や海外では木でつくられた高いビルの建設も進んでいます。

木のくずを燃やして電気をつくる木質バイオマス発電
さまざまなアイデアや技術を使って、これからももっと木がたくさん使われるようになるといいですね。木を使う機会が増えると国産の木材出荷も増え、伐るべき木がきちんと伐られ、また植えられるようになり、森林の良い循環がつくられていきます。そして、それは森で働く人々の収入にもつながり、林業の「人手不足」の解決にもなるでしょう。
加えて、木は成長するときにたくさんの二酸化炭素を吸収するので、木を使い、新しく植えて育てることで、地球温暖化をふせぐことにもつながります。
このように、木を適切に使うことが、豊かな森林を育て、地球を守ることにもつながるのです。(渡部さん)
社会課題に林業のちからで貢献し、豊かな自然を
みなさんの中で、花粉症に悩んでいる方はいますか。スギやヒノキは森林資源の循環利用のためには欠かせない樹種である一方で、花粉症の原因にもなっています。
最近の林業では、成長が早く二酸化炭素の吸収量が多い「エリートツリー」や、花粉の量が少ない「少花粉スギ」、花粉を出さない「無花粉スギ」などさまざまな特性を持つ苗木が注目されています。多様なニーズに合わせた苗木が普及すれば、花粉症が引き起こす、さまざまな社会課題の解決にも寄与できるかもしれません。(渡部さん)
豊かな自然は、地球に生きる私たちにとって大切な宝物です。
手入れが行き届き、生き生きとした森林はきれいな水や空気を生み出し、さまざまな植物や動物たちが集まります。そして、美しい森林がある山々は、わたしたちにとっての「心のふるさと」です。
いつまでも美しい豊かな森林を守るためにも、「木を使い、親しむ暮らし」について、ぜひ、みなさんで考えてみてください。(渡部さん)
原稿作成:株式会社 日経BP