“手の衛生”でアフリカの感染症を防ぐ
サラヤ株式会社
わたしたちの健康を守るために大切なことのひとつが,感染症を予防することです。途上国の人々は,感染症を予防する知識や衛生環境が十分ではなく,そのために,下痢などの予防できる病気で多くの子どもたちが命を落としています。
サラヤが行なっているアフリカのウガンダでの取り組みを例に,感染症の予防が人々の健康を守ることについて考えてみましょう。
ウガンダで手指のアルコール消毒を広める活動をしている,サラヤ・マニュファクチュアリング・ウガンダの衛生インストラクター,ロビーナ・アジョクさんにお話を聞きました。
ウガンダで始まった手洗いと,病院でのアルコール消毒の習慣化
ウガンダでは,トイレの後や食事の前,外出先から家に帰ったときに「石けんで手を洗う」という,日本では当たり前の習慣がほとんどありません。子どもの頃から正しい手洗いの習慣を身につけることで,多くの感染症を防ぐことができます。特に,病気や病原菌を食い止める力の弱い5歳未満の子どもたちが亡くなる数を大きく減らすことができるのです。(ロビーナさん)

Saraya Manufacturing (U) Ltd.(サラヤ・マニュファクチュアリング・ウガンダ) 衛生インストラクター ロビーナ・アジョクさん
サラヤは日本ユニセフ協会と協力し,2010年よりウガンダで「100万人の手洗いプロジェクト」をスタート。水道が整備されていないところでも手洗いができるように,「ティッピー・タップ」という簡易手洗い設備を普及させ,子どもたちや大人に手洗いの重要性,正しいやり方を伝えてきました。
その次にスタートしたのが,2012年からの「病院で手の消毒100%プロジェクト」。ウガンダ産のサトウキビを原料としたアルコール手指消毒剤を生産し,病院や公共施設などに販売。特に衛生管理が重要な病院で,「手の衛生」という考え方を広めてきました。

水道が整備されていないところでも手洗いができる「ティッピー・タップ」。
病院で消毒をしないまま手術することも
病院で働く医師や看護師などのスタッフが手指の消毒を徹底することで,多くの感染症から人々を守ることができるのです。
それまでのウガンダでは,病院の医師や看護師でさえ,診察や治療をするときは石けんで手を洗えば十分と考えていました。衛生的で設備も整った日本では想像ができないかもしれませんが,当時のウガンダでは,国内トップクラスの病院でも診察や医療器具を扱うときに,手指をアルコール消毒していなかったのです。設備が十分ではない地方の小さな診療所では,消毒をしないまま手術をするということも珍しくありませんでした。(ロビーナさん)

病院での手の衛生の大切さを伝える「病院で手の消毒100%プロジェクト」。
ロビーナさんは「衛生インストラクター」として,病院を訪ねて講習会や勉強会を行います。手指をアルコール消毒するだけで,感染症になる危険を減らせること。それは患者の命だけでなく,病院で働く医師や看護師,その家族の健康も守ることになります。その活動が実を結び,少しずつ病院で働く人たちの間で消毒が習慣になっていきました。
患者さんを診察する前とその後,注射などの医療器具を使う前や後は必ず手指をアルコール消毒する,といった,消毒が必要なタイミングについて,そして正しく消毒する方法を教えています。また,アルコール消毒剤を病院に置いてもらったら,みんながきちんと使っているかもチェックします。(ロビーナさん)
感染症で多くの命が失われているアフリカ
アフリカで何度か流行している,発症した人の約半分が亡くなってしまうと言われる恐ろしい感染症「エボラウイルス病」。エボラは主に,血液や唾液などの体液や,体液に触れた注射器などから感染します。病院で手指,医療器具をアルコール消毒することは,エボラを予防するのにとても大切なのです。

エボラなどの恐ろしい感染症を防ぐのにもアルコール消毒は大切です。
また,アフリカでは妊娠中や出産時に感染症で亡くなる母親や子どもが多くいます。大きな病院に通える妊婦はごく一部で,多くの妊婦は設備が不十分で衛生的でない小さな病院で治療を受けて出産します。こうした不衛生な環境で感染症にかかってしまい,亡くなってしまうという悲しいできごとが少なくないのです。
アフリカに住む人たちにとって,まさに出産は命がけです。アルコール消毒剤を使うことで,妊産婦や子どもたちの命を少しでも助けたいと思っています。(ロビーナさん)

このようにウガンダでは,家庭や学校で石けんによる手洗いの習慣化や,病院での手指のアルコール消毒を徹底することで,感染症の予防が進みつつあります。ウガンダ財務・計画・経済開発省(MoFPED)によると,子どもたちの命を奪う病気の75%以上は予防可能というデータもあります。
自分の国で生産・販売することで,働く場所をつくる
ウガンダでアルコール手指消毒剤が広まることには,もうひとつのメリットがあります。

ウガンダのアルコール消毒剤生産工場のようす。
サラヤでは,ウガンダに会社をつくり,ウガンダ産のサトウキビを原料に使い,ウガンダの工場でアルコール消毒剤をつくって,販売しています。働いているのは,みんなウガンダ人です。
日本から商品を届けるのではなく,その国で生産するシステムをつくることで,現地の人々が仕事を得ることができます。安定した仕事を持つことは,貧しい人々の生活をよくし,十分な食事や子どもたちが学校に通うことも可能にします。働く喜びを知ることは,その国の経済を発展させることにもなるでしょう。(ロビーナさん)

コラム
21世紀はアフリカの時代がやってくる!

少子高齢化が問題の日本とは異なり,アフリカはこれからも人口が増え続け,経済が発展していくと言われています。途上国のイメージが強かったアフリカですが,これからはその姿が大きく変わっていくでしょう。
ちょうど半世紀前までは世界から経済支援を受けていた中国が,今ではアメリカと肩を並べるほどの経済大国になるまでに発展したのと同じことが起きるかもしれません。
原稿作成:株式会社 日経BP