地球温暖化の原因となる二酸化炭素
みなさんは、地球の気温がどんどん上がっていることを知っていますか?
これを「地球温暖化」と呼び、その原因となる温室効果ガスのひとつに「二酸化炭素(CO2)」があります。私たちの暮らしは、たくさんの二酸化炭素を出していて、地球環境に大きな負担をかけています。
このままでは、夏の暑さがもっと厳しくなったり、大雨や台風の被害が大きくなったりします。こうした気候変動により、私たちが毎日食べる農作物や魚がとれなくなるなど、さらに生活に影響が出るかもしれません。
二酸化炭素が増えすぎると、気温や海水温が上昇することでさまざまな影響が出て今までどおりの生活ができなくなる。
私たちの生活を守るためには、暮らしの中で出る二酸化炭素を減らしていくこと、すなわち「脱炭素」の取り組みを広げていく必要があります。
では、二酸化炭素を減らしながら、よりよい未来をつくるためには、どんなことができるのでしょうか?
「木」を活かした建物づくりで地球の未来を守る取り組みをしている住友林業株式会社の鷹山紗彩さんに聞いてみました。
住友林業株式会社 建築事業部 建築部 意匠設計第1グループ 鷹山紗彩さん
「木」を活かした建物づくり
「住友林業では、みなさんが住むような住宅はもちろん、商業施設やビルなどの大きな建物も「木」を活かして建てています。
私は"意匠設計"という仕事をして、建物の外観や壁、床などの目に見える部分のデザインをどうすればすてきに見えるか、みんなが使いやすいかを考えています。「木」を使って建物を建てると、快適で心地よい空間がつくれるだけでなく、地球にやさしく豊かな暮らしにもつながります。」(鷹山さん)
鉄やコンクリートよりすぐれた「脱炭素」効果がある木材
木で建物を建てると、どうして環境によいのでしょうか。
木は成長の過程で光合成によって、二酸化炭素を吸収して炭素として蓄え、酸素を排出します。歳をとった木は二酸化炭素を吸い込む量が落ちてしまうので、成長したらきって新しい木を植えて育てることが大切です。
さらに、木はきったあとも炭素をとじ込めているので、製品の材料として使われることで炭素を貯める倉庫になってくれます。木でつくられるものの中でも、鉛筆や紙のノートよりずっと長く使われる「建物」は、そのぶん長く炭素を貯めてくれるのです。
イラストのCO2は二酸化炭素、O2は酸素、Cは炭素をあらわしている。木が吸い込んだ炭素は、製品になっても内部に残り続ける。
建物に木を使うメリット
実は、世界の産業別にみた二酸化炭素の排出量の約40%が建設分野から出されています。温暖化を抑えるためには、日々の生活で省エネ化に取り組むことに加えて、建てるときの二酸化炭素を減らすことも大切です。
建物を建てるときには、資材の製造、運搬、工事など多くの工程で二酸化炭素が排出されていますが、木造の建物は鉄骨の建物と比較して、二酸化炭素の排出量が約45%も少なくてすみます。
※One Click LCAにより算出 ※3階建ての事務所(1500㎡)を対象に算出
※60%削減の算定範囲:基礎・構造座 ※鉄骨住宅:重量鉄骨造
木造建築には、地球の二酸化炭素を減らすという点で大きな強みがあります。住友林業では、自分たちの会社の事業で出す二酸化炭素を2050年までに実質ゼロにすることを目標にしています(鷹山さん)。
木造の中・大規模建築を実現する技術の進歩
これまで、ビルやマンションなど大きな建物は鉄やコンクリートのイメージがありましたが、技術の進歩によって世界中で木造の中・大規模建築が注目されています。
世界でも特に環境意識の高いヨーロッパでは、木造の高層建築が次々と建てられています。有名なものとしてはノルウェーにあるミョースタワー(18階建て・高さ85.4m)、オーストリアのホーホーウィーン(24階建て・高さ85m)などがあります。住友林業も、2025年3月にイギリスのロンドンで6階建ての木造オフィスを建てました。
ただ、日本はとても地震が多い国のため、厳しい災害対策が求められます。日本の建築基準法では、地震に強い建物を建てることや、地震による火災を防ぐことについて、細かく決まりが定められています。
そこで住友林業では、見た目やあたたかみといった木のよさを活かしながら、地震や火災に強い建材を開発しました。(鷹山さん)
住友林業の開発した、木を使った火災に強い建材「木ぐるみCT」の柱と梁のイメージと「木ぐるみCT」を使用した様子。最大で3時間、火災に耐えることができる。
日本でも木造の高層建築を建てる動き
こうした技術の進歩により、日本でも木を使って高層建築を建てる動きが始まっています。
北海道札幌市にある木NINARU BLDG.は、2021年に完成した鉄骨と木造を組み合わせた構造の10階建てオフィスビルです。外装で使用した木材もすべて北海道産の木が使われる「地産地消」によって、材料を運ぶ距離を短くして二酸化炭素の排出量を減らすほか、地域の産業にも貢献しています。
木をふんだんに使いながら、国の定める地震や火災から人々を守るための基準を満たしている。
その土地の木を使って建てられた空間は、地域への愛着や意識を高めます。多様な人が集まって楽しく創造的に交流する場所として、日々活用されています。(鷹山さん)
人や動物にもやさしい木造建築
木造建築は、環境だけではなく、人や動物にもよい影響を与えられると考えられています。京都府亀岡市にある、「木香テラス」もそのひとつです。
木香テラスは、2016年に完成した、関西盲導犬協会の盲導犬を育てるための訓練施設です。床には杉の角材が敷かれ、木の香りも良く、訓練中の犬の足への負担も減らすことができます。実は私が住友林業に入社したのも、この「木香テラス」がきっかけでした。
小さい頃、私の家では、盲導犬になる前の子犬を預かって育てる「パピーウォーカー」をしていて、犬が大好きになりました。大学生のころに「木香テラス」を見る機会があり、犬たちが木に囲まれた素晴らしい環境で過ごせることに感動して、この建物を建てた会社に入りたい!と思ったのです。
犬舎は一般的に鉄骨やコンクリートでつくられることがほとんどです。しかし、木造の木香テラスでは、実際に盲導犬が暮らすことになる家庭に近い環境で訓練を行うことができるようになりました。
また、木造建築は人間のストレスや疲労感を和らげる効果があることがわかっていきています。犬も冷たいコンクリートより、あたたかみのある木の建物で暮らすほうが気持がよいし、健康的ですよね。この施設で、職員の方や、盲導犬と暮らす方、そして犬もリラックスしながら、盲導犬になる訓練を受けています。(鷹山さん)
木の香りが広がる犬舎の空間は、家庭のリビングを意識して設計されている。
身近な木は一緒に未来を守る仲間
二酸化炭素の排出量を減らす「脱炭素」は、私たちの未来を守るためにとても大切な取り組みです。
森を育て、木を使うこと、そして使った分の木を植えることは脱炭素社会を実現することにつながります。
みなさんが、身近にある木を大切にしたり、木からつくられた製品を選んだりすることも未来の環境を守ることにつながります。脱炭素を進めていくために、自分たちでどんなことができるのかぜひ考えてみてください。(鷹山さん)
コラム 二酸化炭素がどのくらい排出されているかを「見える化」する仕組み
住友林業では、建物をつくるときに二酸化炭素がどのくらい排出されているかを見える化する、「OneClick LCA(ワンクリック エルシーエー)」という仕組みを導入しています。住宅の設計から、使用する建材を選ぶとき、建物をつくるとき、そしてこわすときにいたるまで、これからつくる建物が「どれだけ脱炭素に貢献できるか」が見てわかるようになっています。
このように「見える化」することで、二酸化炭素の排出量や、木材に固定された炭素の量を意識することができ、脱炭素社会の実現へとつながります。
原稿作成:東京書籍株式会社
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